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2006年9月30日 (土)

ウィスキー~ちょっと小粋なウルグアイ映画~

昔、黒澤明監督が『映画は世界の広場』と言っておられたようですが、確かに映画を通じて、その国の人の感性に触れることで意外な発見があったりするものです。

以前にブラジル映画の『セントラルステーション』をご紹介しましたが、今回の作品も南米ウルグアイの映画。

ウルグアイなんて、サッカー以外に僕は知らず、映画なんて全然観たことがなかったのですが、それもそのはず、ウルグアイではこれまでに60本の作品しか作られておらず、2002年までは実質映画産業は存在しなかったとか…

Photo_46 ウイスキー

2004年のウルグアイ映画。

監督・脚本は若干30歳のファン・パブロ・レベージャとパブロ・ストールの二人。

出演は、アンドレス・パソス、ミレージャ・バスクアル、ホルヘ・バローニ。

2004年の東京国際映画祭やカンヌ映画祭での話題作品。

舞台はウルグアイの小さな靴下工場。

小さな靴下工場を父親から譲りうけた初老の男ハコボは、結婚もしておらず、子供もいません。毎朝、工場の近くの薄暗い店で朝食を食べると、そのまま工場に行き、工場のシャッターを開け、機械のスイッチを入れるといったことを毎日繰り返す日々を送っています。

そのハコボを毎朝工場の前で待っているのが、工場で長く働く中年女性のマルタ。

ハコボがやって来てシャッターが開くと、工場に入っていき、お茶を入れたり、ハコボの手伝いを淡々と済ませていくマルタ。でも、そんなマルタとハコボには、ほとんど会話といったものも無く、ただ毎日を機械的に送るような日々。

そんなある日、ハコボが珍しくマルタに声をかけてきます。

1年前に亡くなった母親の墓石の建立式に弟エルマンを呼ぶことになったが、その時だけ自分の妻のフリをして欲しいという頼みをするハコボ。

マルタは特に嫌がる素振りも見せず、まるで仕事の一つのようにあっさり引き受けます。

次の日の朝、いつものようにハコボとマルタは工場の前に会いますが、ハコボはいつもと同じようにシャッターを開け、機械にスイッチを入れて、仕事を始めていきます。

ハコボの様子はいつもと変わらないのですが、その様子をただ黙って見ているマルタは、少し異なります。マルタは、仕事の合間に、『例の件』の打ち合わせが必要なのではないか?とハコボに話しかけますが、ハコボはまるで他人事のように、『それもそうだ。』という感じの受け答え。

このあたりから、男と女の感覚の違いが出てき始めるんです。

マルタは仕事が終わってから、ハコボの家を見に行きますが、これまたヒドイ。

いかにも男の一人暮らしって感じの部屋で、とてもじゃないですが、夫婦が生活をしている部屋ではない。

でもマルタは何も言わず、それを黙って見ています。

このあたりの演出も、どこか日本的というか、南米のイメージとは全く異なります。

そして、いよいよ弟のエルマンがやって来る日が訪れますが、マルタは当然のことながら化粧をしていて、いつもよりキレイに装っているのに、それに対して何も言わないハコボ。

どこかぎこちない感じで、ハコボ、エルマン、マルタという初老の男二人に女一人の物語がいよいよ始まっていきます。

この映画、なかなかの秀作です。

まず、南米というとどうしても陽気で賑やかな印象を持ちますが、この映画を観る限り、全く違う!

無駄なセリフが全くなく、カメラもあまり動かない、人物の表情を淡々と撮りながら表現していく様子は、まるで日本の小津監督や北野監督のようです。

この映画の演出の面白さは色々あるでしょうが、例えば、ハコボとエルマンが空港で出会うシーン。

二人はお互いに靴下を交換するのですが、兄のハコボは自分の工場の靴下の縫製は悪くて、空港で新しい靴下を買うのに対して、弟のエルマンが兄のハコボに渡した靴下はキレイでエルマンの工場の値札も付いている。

このシーンだけで、二人が互いに靴下工場を経営していて、弟の工場は経営がうまくいっているのに対して、兄の工場は厳しいのが分かります。

それ以外にも面白いのがハコボとマルタの関係。

この二人、夫婦のフリをするわけですけど、工場での二人の生活を見てるとまるで、長年連れ添った夫婦のようなんです。ほとんど会話が無い。

いくら工場で長く働いているマルタといっても、お互い独身の二人が、夫婦のフリをして一つの屋根の下に暮らすことになるにも関わらず、それでも家の会話が無い。

わずか数日の偽りの夫婦生活の中でも、マルタは女っぽくなっていくのに、ハコボは全く変わらない。

そんなハコボに愛想を尽かし始め、どちらかというと弟のエルマンに惹かれていくマルタ。

無口で不器用なハコボと、話好きで親しみやすいエルマン。

この映画を観てると、マルタの女心に気づかないハコボがまるで自分のように思えるのは僕だけ?(^_^;

この映画は、言ってみれば初老の男女の三角関係を描いているような面もあるんですが、それがいやらしくなくて、巧い。

芸術の秋に観るにはオススメの映画です。

ちなみに、映画のタイトルの『ウイスキー』は、日本で言えば、『チーズ』。

日本では写真を撮るときに、『ハイ、チーズ』と言って、みんな作り笑いを浮かべますけど、これがこの映画の中では『ウイスキー』と言って、三人の登場人物が写真撮影をするんです。

作り手の意図としては、そういう『作り笑い』の嘘を重ねていく中で、互いの絆を深めていく姿を描きたかったからのようです。

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どこかなつかしい、退屈で不器用な、人間模様。 ブラジルとアルゼンチンに接した人口330万人強のウルグアイから日本初上陸の作品が送り込まれた。「ウィスキー」。カンヌ映画祭でオリジナル視点賞と国際批評家連盟賞、そして東京国際映画祭でもグランプリと主演女優賞に輝いた作品である。監督は、弱冠30歳の二人組み、ウルグアイ本国では映画はいままでに全部合わせても60本の製作本数しかないという。 父から残されたうらぶれた靴下工場を経�... [続きを読む]

受信: 2006年11月20日 (月) 12時04分

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