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2006年9月24日 (日)

クラッシュ~現代社会の苦悩と希望~

2週間ほど前の9月11日は、あの衝撃的な『9.11』から丸5年が経過した日でした。世界中に流れたあの衝撃的な映像は未だに本当の出来事とは思えません。

あれからイラクやアフガニスタンでの戦争が始まり、つい1ヶ月ほど前にもイギリスでテロ未遂の事件が発生。

一体、世の中はどこに向かっているんでしょう?

どうしてまた、こんなに紛争が世界中で起こるんでしょう?

現代は人類史上かつてないほど、物質的には豊かになり、世界中の人がこれほど身近にお互いを感じることが出来るようになったはずなのに…

助け合うことより、傷つけあうことのほうが多い毎日。

Photo_45 クラッシュ 2004年のアメリカ映画。

2005年のアカデミー賞では作品賞、脚本賞、編集賞を受賞しました。

監督・脚本は『ミリオンダラーベイビー』で脚本を務めたポール・ハギス。

出演はサンドラ・ブロック、マット・ディロン、ドン・チードル他。

舞台はロサンゼルス。

クリスマス前のある夜、ロサンゼルス警察の黒人刑事グラハムと恋人でもあり同じ刑事のリアは交通事故に巻き込まれます。

助手席に座ったグラハムは、独り言のようにリアに話しかけます。

グラハム『触れあいだよ。』

リア『何のこと?』

グラハム『街中を歩けば、よく人と体がぶつかったりするだろ?でも、ロスじゃあそれは皆無。人々は大抵車の中にいる。でも、触れあいたいのさ。ぶつかって何かを実感したいのさ。』

リアは、グラハムが事故のショックで何かおかしなことを言い出したと思い、車の外に出て様子を見に行くと、そこではアジア系の女性が事故の原因はリアにあると騒いでいます。スペイン系のリアとアジア系の女性の口論…

グラハムは車の外に出て、すぐそばの事件現場に向かっていくと、そこには事件に遭遇した黒人青年の遺体が横たわっています。

グラハム『…』

場面は変わって、ペルシャ人の雑貨経営者ファハドは、娘のドリと一緒に銃を買おうをしています。しかし、店の主人はファハドのことをイラク人だと思ったのか、なかなか銃を売ろうとせず口論になってしまいます。娘のドリが間に入り、なんとか拳銃と弾を手に入れるのですが、それは度々強盗に襲われる店を守るためのものでした。

場面変わって、夜のウエストウッドを若い黒人アンソニーとピーターが歩いていますが、そこはあまり黒人が歩かない所。アンソニーは、黒人は差別されるといってイラついているところに、たまたまそばを通りかかった白人カップルの女性の態度が気に障り、二人の車を強引に奪い去っていきます。二人が襲ったカップルとは、地方検事夫妻であったとは知らずに、現場から奪った車で逃げていくアンソニーとピーター。しかし、逃げていく途中で韓国人男性を車で轢いてしまいます。

白人警官のライアンは勤続17年のベテランですが、人種差別的なところがあります。ある夜のパトロール中にパーティー帰りのテレビディレクター夫妻が乗る車を特に理由もなく停車させ、職務質問を開始します。ライアンは夫のキャメロンを車から降ろし、職務質問を開始しますが、ライアンの態度に腹を立てた妻のクリスティンがライアンに食って掛かります。ライアンの態度があまりに、夫妻が黒人であるが故の尋問に思えたからです。キャメロンは必死でクリスティンをなだめますが、クリスティンもライアンに屈辱的な扱いを受けてしまいます。

この映画には、様々な人種や職業の人間が登場し、同時進行で複数の物語が進んでいきます。

共通しているのは、それぞれが常に何かとぶつかり、トラブルの中に巻き込まれていること。

黒人の刑事にスペイン系の女性刑事、アラブ系の雑貨店主、メキシコ系の男、白人の警官、アジア系の男…

なぜか、ぶつかりあってしまう。

お互いを傷つける気持ちなど無いにも関わらず、傷つけあい、苦しむ人々。

この映画のポスターになっているシーンは、マット・ディロン演じる白人警官ライアンが、事故に巻き込まれたクリスティンを助け出すものですが、レイプともいえる屈辱的なことをされたクリスティンが事故に遭遇し、そこに助けにきたのがライアンという運命の皮肉。

生死の境にいる状況にも関わらずライアンの助けを拒むクリスティン。最初は戸惑いを覚えたライアンも、警官としての使命感で彼女を必死に説得し、最後には助け出し、自然に二人はお互いの無事を喜び抱き合うシーンが、この映画の一番のメッセージかもしれません。

この映画は、後半に向けて、複数の物語や登場人物が一つにつながっていき、最初の事件現場のシーンに戻っていく構造になっていますので、そのあたりもじっくり観て下さい。

マーク・アイシャムの音楽も、スゴク印象的で映画を盛り立てていて、なかなか興味深い作品なので、まだ観ていない人は是非一度観て欲しい作品です。

かつてアメリカは人種のるつぼと言われ、様々な人種問題を抱え今に至っていますが、そのアメリカの苦しみと希望を感じさせてくれる作品。

ただこの映画の話は、アメリカの話というよりも、現代の世界が抱える共通の問題を語っているようにも思います。

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